平成28年8月26日 判決言渡
同日原本領収 裁判所書記官
平成27年(ネ)第3500号 損害賠償請求控訴事件
(原審・大阪地方裁判所平成
26年(ワ)第6284号)
口頭弁論終結日 平成28年6月10日
判 決
控 訴 人 岡 本 成 司
控 訴 人 安 達 俊 治
控 訴 人 竪 山 兼 弘
上記3名訴訟代理人弁護士 重 村 達 郎
同 宮 沢 孝 児
被 控 訴 人 小 山 典 夫
同訴訟代理人弁護士 辰 巳 裕 規
同 大 田 悠 記
主 文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は、控訴人らの負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す
2 被控訴人は、控訴人岡本成司に対し 55万40O0円及びこれに対する平
成25年8月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人は、控訴人安達俊治に対し,55万40O0円及びこれに対する平
成25年8月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被控訴人は,控訴人竪山兼弘に対L, 55万400O円及びこれに対する平
成26年3月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は,第1, 2審とも被控訴人の負担とする。
6 仮執行宣言
第2 事案の概要
1 事案の要旨
本件は,控訴人らが,被控訴人に対し,被控訴人は,平成25年8月24日
に控訴人安達俊治 (以下 「控訴人安達」という。) の右肩付近を強く押して,
同人とその付近にいた控訴人岡本成司 (以下 「控訴人岡本」という。)を転倒
させ,平成2 6年3月2 3 日に控訴人竪山兼弘 (以下 「控訴人竪山」とい
う。)の左腕を殴打したなどと主張して,不法行為に基づく損害賠償として,
各55万4000円 (慰謝料5 0万円及び弁護士費用5万4 0 0 0 円の合計
額)及びこれに対する各不法行為の日(控訴人岡本及び控訴人安達については
平成25年8月24日,控訴人竪山については平成2 6年3月2 3 日)から支
払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案であ
る。
原審は,控訴人らの請求をいずれも棄却したため,同人らがこれを不服とし
て控訴を申し立てた。
2 争いのない事実等
争いのない事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり改める
ほかは,原判決 「事実及び理由」中の第2の2及び3(原判決2頁14行目か
ら5頁2行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決3頁10行目,26行目,4頁4行目から5行目にかけて,6行目
9行目の各 「原告堅山」をそれぞれ 「控訴人竪山」に改める。
(2) 原判決3頁l 3行,1 7行目,2 2行目の各 「右肩」をそれぞれ 「右肩
付近」に改める。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
次のとおり改めるほかは,原判決 「事実及び理由」中の第3の1(原判決5
頁4行目から8頁15行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決5頁23行目の 「本件事務所は,南北が東西より長い長方形の部屋
であり,」を「本件事務所の」に改める。
(2) 原判決6頁2行目の 「なっていた」の次に 「(甲41)」を加える。
(3) 原判決7頁I行目の 「開催し,」の次に, 「大橋が司会を務め,」を加え
る。
(4) 原判決7頁1行目,19行目,22行目,24行目から25行目にかけて,
8頁5行目,7行目の各 「原告堅山」をそれぞれ 「控訴人竪山」に改める。
(5) 原判決7頁1行目から2行目にかけての 「林,池埜及び大橋」を「林及び
池埜」に改める。
(6) 原判決7頁7行目の 「甲5,6」の次に 「,45~47,乙14(枝番を
含む。)」を加える。
2 争点(1) (第1事件につき,被控訴人が控訴人安達に対し 右肩付近を強く
押すという暴行をしたか)について
(1) 控訴人らは,第1事件につき,被控訴人が,控訴人安達の右肩付近を強く
押したと主張し 控訴人安達の原審における供述は,これに沿うものではあ
るが,同人は,自分を押した被控訴人の手が右だったか左だったかは分から
ない旨供述しており,暴行を受けたと言う者の供述としては曖昧な点がある
ことは否めない。
(2) 他方,大橋は,被控訴人が右手で控訴人安達の右肩辺りを押して,控訴人
安達がそれでバランスを崩して後ろ向きに倒れた旨証言する。
しかし 控訴人らが大橋を証人として申請したのも,第1事件についての
大橋の陳述書 (甲31)が控訴人らから提出されたのも当審においてであり
原審においては,控訴人らは,被控訴人が控訴人安達を押したのを大橋が目
撃していたとは主張しておらず,控訴人ら申請の当事者及び証人のいずれも
が,大橋が目撃していたとは供述ないし証言していなかった。
また,被控訴人と立場の近い村上が書いた記事 (甲12,前記認定事実
(3)ウ)中には,第Ⅰ事件時の状況として,「大橋事務長は 「安達さんを押
し倒しておいて」 「見ていた」と言いました。」との記載がある一方で,証
拠 (甲47の1,乙14の2)によれば,大橋は,第1事件の1週間後であ
る平成25年8月31日に開かれた派遣パートユニオン関西の臨時執行委員
会において,被控訴人が控訴人安達に詰め寄ったのは見たが,それ以上のこ
とは見ていない旨発言したことが認められる。この発言は,大橋の上記証言
と相反する。
大橋は,その証人尋問において,原審段階で本件訴訟に関与しなかった理
由として,労働組合活動の本旨と外れること,協力しなくても被控訴人の責
任が認められるものと思っていたことを挙げる。また,臨時執行委員会にお
いて上記発言をした理由として,議事が混乱していた中,司会役として進行
に必死だったのではっきりとした覚えはないが,刑事告訴を避けるため,ま
た,司会役として中立の立場を保つため,控訴人らを後押しするような発言
を控えたのではないかとの旨を証言する。
これらの経緯についての大橋の説明を踏まえても,原審では,控訴人安達
の供述以外には,控訴人らの主張に全面的に沿う供述ないし証言はなかった
のに,控訴人らと近い立場の者から,当審になって初めて,控訴人らの主張
とほぼ完全に一致し,かつ,極めて明快な目撃証言がされたことが不自然で
はないと判断するには躊躇を覚えざるを得ない。大橋の上記証言は採用する
ことができないというべきである。
(3) 証拠 (甲47のエ)によれば,林は,平成25年8月31日に開かれた派
遣パートユニオン関西の臨時執行委員会において,第1事件を自ら目撃した
状況につき,「二人とも接近したはったんですよ,すごく。そうして,こう
してたら,こう多分,押した感じで,もっと接近してましたよ。押した感じ
で,安達さんがこうずっと……」, 「手はね,ちょっとね,そこまで,はっ
きり覚えてないですけど,ただ明らかに,こう押された感じで,ずっとこ
う」,「ぐーって後ろに,そのあいだに押されて」などと発言したことが認
められる。また,控訴人安達は,原審において,林は,目の前を白いものが
長くすうっと伸びていって,控訴人安達が倒れたということを言っていた旨
供述した。しかし,控訴人安達が倒れるに至った経緯について林が述べる内
容は暖昧なものにとどまっている上,反対尋問を経たものでもないから,直
ちに採用できるものではない。
そして,その他の者の原審における証言及び供述には,控訴人安達がどの
ように倒れたのかにつき目撃していたことを述べるものはない。
(4) これに対し 被控訴人は,控訴人ら主張の暴行の事実を否認するとともに,
控訴人安達は,自らしりもちをつく行動をとった旨主張し,原審において,
これに沿う供述をする。
もっとも,証拠 (甲45~47,乙14(枝番を含む。))によれば,被
控訴人は,平成25年8月31日に開かれた派遣パートユニオン関西の臨時
執行委員会において,「なんで彼が,私にくっつくんや気色悪い」, 「ひっ
ついたら,気色悪い」,「ひっついたら,離れえ」, 「当たり前やろ,こん
なん男がぎゃ一とひっついてくるねんで」,「安達氏が近づいたん,ちゃう
ねん,ひっついたんや俺に。誰かて気色悪いわ,男にひっつかれたら」,
「なんやという形で俺にひっついたんや,誰かてひっついたら離れえってこ
うなるやろ。そんな気色悪い」, 「なんで俺にひっついたんや。常識で考え
てみい,ひっついたら嫌がるやろ,誰でも。ひっついたらひっつくんか」,
「ひっついてきたからや,ひっつけへんかったらな,会話でおわっとうわけ
や」などと発言したことが認められる。これらの発言からは,被控訴人は,
控訴人安達がひっついて来たから,それを解消するための行動をとったこと
を言外に認めているかのようにも受け取ることができる。
また,被控訴人と立場の近い村上が書いた記事 (甲12)に,第1事件時
の状況として, 「安達執行委員が腹を寄せてきました。小山さんは不快に思
い,ぽんと腹を突き出しました。すると安達氏は尻餅をつき……」との記載
がある (前記認定事実(3)ウ)ことからは,被控訴人が腹を突き出した結果,
控訴人安達がしりもちをついたと言っているようにも読める。
(5) 以上に述べたことによれば,控訴人安達がしりもちをついたのは,被控訴
人と何らかの身体的接触があってのことと認められるが,その身体的接触の
具体的態様については,被控訴人に押されたと言う控訴人安達自身,その原
審における供述によれば,被控訴人とは正対していたことになるにもかかわ
らず,自分を押した被控訴人の手が右だったか左だったかは分からない旨供
述するにとどまっている上,被控訴人が控訴人安達とは相反する供述をして
いる以上は,控訴人安達の供述は直ちに採用できるものとはいえない。そし
て,他に,控訴人らの主張どおり,被控訴人が控訴人安達の右肩付近を強く
押したと認めるに足りる的確な証拠はない。
また,前記(4)において述べたことからすれば,被控訴人は,腹を突き出
して控訴人安達を転倒させたことは認めていたかのように受け取れなくもな
いが (もっとも,腹を突き出すことで他人が転倒するのかという疑間はあ
る。),そのことをもって,控訴人らの主張どおりの暴行の事実があったと
認めるには至らないというべきである。
(6) したがって,第2事件につき,被控訴人が,控訴人安達に対し,右肩付近
を強く押したとは認められない。
3 争点(2)(第2事件につき,被控訴人が,控訴人登山の左腕に左ストレート
パンチをするという暴行をしたか)について
(1)控訴人らは,被控訴人が,控訴人竪山の左上腕部に左ストレートパンチを
浴びせたと主張し 控訴人竪山作成の報告書 (甲16)には同旨の記載があ
るが,同人は,原審において,左肩辺りに衝撃を受けたが,一瞬のことで何
が起こったか分からなかった,その後,本件事務所で,控訴人岡本から,ス
トレートでたたかれたと聞いて,あの衝撃というのはそれだったんだと思っ
たと供述した。
その控訴人岡本は,原審において,被控訴人が,控訴人竪山の左肩を左ス
トレートで殴打したのを目撃した旨供述した。また,大橋は,被控訴人は,
左手で,控訴人竪山の左肩辺りを殴った旨証言する。
(2) これに対し,被控訴人は,控訴人竪山のビデオ撮影に抗議し 撮るなと言
ってビデオカメラを左手で払っただけであり,控訴人竪山の左腕を殴ったこ
とはない旨主張し,原審において,これに沿う供述をした。
(3) 前記(1)のとおり,控訴人竪山の原審供述によれば,同人自身は,そもそ
も被控訴人に殴られたとの認識を有していなかったことになるのであるが,
本件の全証拠によっても,控訴人竪山が,当時被控訴人に殴られてもそのこ
とを認識できなかったと考えられるような事情を見いだすことはできない。
被控訴人に殴られたと言う控訴人竪山自身の供述が上記の程度にとどまり,
かつ,被控訴人はこれに相反する供述をしている以上,前記(1)の控訴人岡
本の原審供述や大橋の証言も,控訴人竪山の上記供述を補うに足りるもので
あるということもできない。
(4) したがって,第2事件につき,被控訴人が,控訴人竪山の左上腕に左スト
レートパンチを浴びせたとは認められない。
4 結論
以上の次第で,控訴人らの請求は,その余の点については判断するまでもな
く,いずれも理由がない。
よって,当裁判所の上記判断と同旨の原判決は相当であり,本件控訴はいず
れも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第8 民事部
裁判長裁判官 山 田 知 司
裁判官 寺 本 佳 子
裁判官 中 尾 彰