ILO宛情報提供 2022年9月1日

あぱけん神戸は、連帯労働者組合・杉並、ユニオンらくだ、連帯労働者組合・板橋区パート とともに4組合でILO宛情報提供を行いました。

2017年、日本政府により地方公務員法が改定されました。私たちは、この法改定が非正規地方公務員の労働組合の有する労働基本権を一方的に奪うものであり、日本政府の批准する87号、98号条約に明らかに違反するものであると考え、

2017 年の 5 月 24 日に結社の自由委員会に申立しました。
しかし 2018 年 11 月、私たちの申し立ては結社の自由委員会で不受理とされてしまいました。

そこで私たちは 2019 年に専門家委員会に「情報提供」を行いました。その後も、2020 年、2021 年と継続して情報提供をしてきました。

2017 年の地方公務員法の改定は労働基本権の問題にとどまらず、雇用政策の面においても重大な問題を引き起こしています。
政府(厚生労働省)は非正規労働者の雇用安定と均等待遇実現に向け、労働契約法や有期・パート労働法を改正してきました。しかし、非正規地方公務員に対しては、これらの雇用政策とは真逆の雇用不安定化と差別的待遇政策をとっています。その原因は、非正規地方公務員の労務政策を総務省が担当しており、厚労省が口出ししにくい構造となっていることにあります。

そこで私たちは今回新たに、非正規地方公務員の雇用不安定化政策に絞って、122 号雇用政策条約の観点から情報提供を行うこととしました。その具体的内容は、下記の「122号雇用政策条約に関する情報提供」をご覧ください。
日本政府(総務省)が進める非正規地方公務員の雇用不安定化政策を改めさせるため、専門家委員会がディーセント・ワーク確立に向けた「見解」を示されることを強く要望します。  以上

詳細資料 ILO122号「雇用政策条約」関連での情報提供
2017年以後の申立の経緯

122 号雇用政策条約に関する専門家委員会への情報提供

122 号雇用政策条約に関する専門家委員会への情報提供

1 政府(総務省)は、従来通りの「更新」を認め、非正規公務員当事者に過大な負担を与える「毎年の公募選考が必須」との助言を撤回すること
2 多くの自治体が今年度末に予定している「3年ごとの公募選考」を中止すること
3 公務員法の「無期原則」にのっとり、非正規公務員の無期雇用を実現すること。最低限、労働契約法にある「無期転換権」を非正規公務員にも適用すること

<日本政府の非正規労働者に関する雇用政策の基本>

122 号雇用政策条約に関する 2013 年日本政府報告書では、非正規労働者について、「雇用が不安定であり、賃金が低い等の問題が指摘されており、正規・非正規の二極化の解消に向け、正規雇用を希望する非正規雇用労働者の正規雇用化を進めるとともに、正規・非正規にかかわらず、労働者が安心して生活できる環境を社会全体で整備することが重要であると考えている。」との基本認識が示されている。
この基本認識に基づき、「①有期労働契約が繰り返し更新された場合に、労働者の申込みにより期間の定めのない労働契約に転換させる仕組み、
②判例で確立された雇止め法理(一定の場合には、使用者による雇止めが認められないルール)の法定化、
③有期契約労働者と無期契約労働者との間で、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の相違を設けることを禁止するルール」を定めるための労働契約法改正を行い、
2013 年 4 月から施行する、とも述べている。

<非正規公務員の置かれた状況>

しかし、これらの労働契約法改正の成果は非正規公務員には適用されない。非正規労働者の雇用安定をはかる「労働契約法」、労働条件の差別的取り扱いを禁ずる「パート・有期労働法」を公務員には適用しない、との条文があるためだ。このため、非正規公務員はその使用者である政府・自治体の一方的裁量による雇用政策の下に置かれている。
非正規公務員は、国で約 15 万人、自治体で 1,125,746 人に上る。自治体正規公務員が2,762,020 人であるから、自治体の非正規率は 30.0%にのぼっている。自治体非正規公務員の 76.6%が女性であり、正規・非正規がほぼ同数である自治体も少なくない。

これら非正規公務員は公務員法制の基本である「無期雇用」、「身分保障」、「適切な賃金・労働条件」原則から外され、一般の労働法制からも排除されている。この現状を私たちは「法の狭間に置かれた」非正規公務員と呼びならわしてきた。
私たち労働組合は、これら「法の狭間に置かれた」非正規公務員の雇用安定と差別的賃金・労働条件の改善に向けて力を注いできた。私たちに共通するスローガンは「任期の定めのない短時間公務員制度の創設を!」、「労働契約法やパート・有期労働法の適用を!」である。

20年以上長期勤続してきた図書館臨時職員を一斉に大量解雇した加古川市での問題

あぱけん神戸 内藤 進夫
私たちの組合が、2005 年から 2007 年にかけて経験した自治体非正規公務員の事例を紹介します。2017 年の地方公務員法改正前の事例ですが、使い捨てにされる非正規公務員の実態に変わりはありません。

【加古川市での問題】

 2005年当時、兵庫県加古川市では図書館の運営を市の外郭団体である「加古川市総合文化振興公社」に委託していました。20年を超えて委託してきた図書館を、突然市の直営に戻すとの動きが生じたため、長期に継続勤務してきた図書館司書の人達が、雇用の継続と安定を求めて私たちの組合に加入しました。私たちは直ちに団体交渉で雇用の継続と安定を求めました。しかし市は、1年限りの「臨時職員」として雇用し、2007年に29人全員を雇い止め解雇したのです。そのあとには退職した正規職員を「再雇用嘱託職員(特別職)」として配置しました。つまり、退職金と共済年金の保障された市の退職者と、29人の長期臨時職員の「首をすげかえ」たのです。
 始めの交渉は、当事者がまだ公社の職員であったことにより労働組合の団交として行えました。しかし市の一般職臨時職員とされてからは、市当局が「登録する職員団体でなければ交渉に応じる義務はない」と主張してきました。このため「登録職員団体」を結成し交渉を行いましたが、不誠実な対応に終始しました。職員団体は不誠実な交渉を労働委員会に訴えることができません。職員個人として、地公法上の公平委員会に「勤務条件の(改善)措置要求」ができるだけです。
 そこで当事者組合員は個人として「図書館業務は長期継続するのに、任期1 年限りの臨時職員として雇用することはおかしい」と公平委員会に申し立てました。しかし公平委員会は、雇い止め解雇後の2007年4月25日に棄却する決定を通知しました。市当局の主張をそのまま追認する「臨時的任用職員としての勤務条件を提示され、それを了解して雇用されたものと認められるから、要求者らの要求は認められない」との判定でした。
 本件では、加古川市で20年以上の長期勤務の臨時職員が、「外部」の地域労組である当該組合加入後に、市当局の人事政策により最長で1年限りの短期雇用の「臨時職員」(地方公務員法22条適用)として雇用され、「職員団体として登録しなければ団体交渉に応じない」として団体交渉を拒否されたうえ、雇用主が任命した公平委員会(弁護士と大学教授が委員)に対して「措置要求」するしか選択支が無く、形式的な審査で棄却されるという結末となった。このため職員団体は解散を余儀なくされました。
 この事例は、定年退職後の正規公務員の職場を確保するために、図書館で 20年以上働いてきた非正規公務員を解雇した事例です。「自治体の都合に合わせて、非正規公務員は簡単に解雇できる」という意識が抜きがたく存在しています。「1年雇用」で「雇用継続するか否かは自治体の裁量=自由」との仕組み=雇用政策があるからです。労働基本権保障とともに、この使い捨ての仕組みを改めさせるための雇用政策が不可欠です。

参考資料:
1964年の雇用政策条約(ILO第122号)日本の批准:1986年6月10日 + 2013年日本政府年次報告:「雇用政策に関する条約(第122号)」より抜粋

日本政府は「正規・非正規の二極化の解消に向け、(略)正規・非正規にかかわらず、労働者が安心して生活できる環境を社会全体で整備することが重要である」と言って、実際に法制化も行った。しかし地公法「改正」においてはそれに反する、非正規差別の固定化をもたらす会計年度任用職員制度を作ってしまった。